他人たちのような自分―琴葉とこ『メンヘラちゃん』(上)について

メンヘラちゃん (上)

メンヘラちゃん (上)

 

  この作品は、ある人から教えてもらった。正確には教えられたというより、その人の読書記録が公開されていたので、私自身が勝手にその中から見つけて読んだ。

 内容としては、不登校かつ不安障害持ちの女子中学生「メンヘラ」(これはキャラクターの名前である)、体調を崩しやすくほぼ登校していない女子中学生「病弱」、特に目立ったキャラ付けもない男子中学生「けんこう」の三人を登場人物とする四コマと、自由なコマ割りの挿話から成っている。

 この作品の基本姿勢は、メンタルヘルス界隈によくある日常のエピソードをブラックジョークとして軽妙に消費していくものである。またその中には当時の流行語・ネットミームが幅広く取り入れられている。こうした特徴は、南条あやによる『卒業式まで死にません』の筆致を否が応にも想起させる。ただ、その軽い*1四コマの合間に挿入される長めのエピソードは本当に生々しく、逃げ場がなく、ありあまる悲惨さが紙面に写し取られている。このような描き分けが絶妙な作品であることは間違いがない。特にその落差が激しい上巻についてはなおさらである。

 ただ、メンヘラネタをコミカルに描く割合がどれだけ多くとも、私にとってはこの作品はあくまで恐ろしい物語である。それは最初に出会って以来ずっと変わることがなかった印象である。その印象のもととなった、私を最も怖がらせた作中のエピソードについて今回は語るつもりだ。

*1:注意しておきたいことだが、この軽さに伴う笑いは決して明るいものではない。理不尽な目にあっても、信頼できる大人に「これは問題だ」と訴える気すら起こらない若者は、ただ笑うしかないからである。

続きを読む