「この街には何もない」ということ―『タビと道づれ』から

 いつもの通り自分語りから始めますと、私は都市らしい都市までは確実に一時間半ほどは要する中途半端な郊外の出身であり、今もそこに住んでおります。この街はなにか全国区の名物を有しており、休日のたび観光客がせっせと足を運ぶ……などということはほとんどありません。この町の(というよりこの町を内包するより広域な自治体の)人間は口癖のように頻繁に「ここは何もないからなあ」とぼやきます。もちろん、長らく私もその一人です。

 今回はこの「この街には何もない」という、ありふれていながらかなり不可解な言い回しの周辺事情を、具体的な作品の協力を得ながら文字にしていくこととします。

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