こちらの記事で高らかに宣言した自主出版物まわりの活動。少しずつですが、動き始めることができました。
その感想をつらつら書いていきます。意外なことは特にありませんが。
忙しい
最近はオンラインストアの運営、データベースへの情報追加、記事の作成などを行っているわけですが、ややブラックな本業の傍らにできる作業量ではない。そのためここ最近ブログ更新や新規の文章も止まっており、自主出版物以外の渉猟もできていません。
今後もこのペースでやるのかは検討の余地があります。
物を売ることは難しい
ネットに上げただけで次から次へと売れるわけはないのは、自分のこれまでの個人誌通販からも予想できたことでした。
文学フリマとかのイベントで自主出版物が売れるのは、①そのときを逃したらもう買えないから、②作者の方がいると何となく買ってみてもいいかと思えるから、という事情があります。ハレではなくケの営みであるネット通販では、購買ハードルは非常に高いです。
でも売上金額の多寡ではなく、自分で広めたいと思った本が売れていくのは素直に嬉しいと思いました。
ZINEのショップ「Lilmag」をやっていたライターの野中モモさんが、「店は自分がいいと思ったものを集めることから始まった、つまり編集だった」という旨をどこかに書いていました。
私も、自分がいいと思ったものを集めるつもりでやっているような気がします。
同じくらいの時期に独力で本のオンラインストアを始めた、勝手に同期のように思っている方がSNSで何名かいます。
その全ての方が、店のページの作り方、選書、紹介文、SNS投稿、梱包やフリーペーパーや同梱物や販促品など、お手本のような運営をされていて見習うべきことばかりです。
私ももう少し真面目に自分の活動を紹介し、好きだなと思ってもらえる努力をしたい。それがないままで売れないのは当然のことであり、作品を預けてくれた方に面目が立ちません。
(というより今まで売れた分は、作品を提供してくれた作者の方がサイトを紹介してくれたおかげなのではと思うことがある。自分の本も、多少出てはいるが……)
メールでのやり取りが楽しい
hesperasで店の商品を仕入れるためには、自主出版物を作っている人に連絡をしなければなりません。
世に普通に出回っている本(ISBNがある本)では、取次と呼ばれる業者に一括で注文すると、どんな版元でも支払いや条件をまとめて届けてくれるといいます。
しかし、自主出版物の世界にそんな便利な仕組みはありません。作者ひとりひとりに連絡し、条件を取り決め支払いを行う必要があります。
作家への連絡は緊張もありますが、とても大切で楽しい作業です。もしかすると、その連絡をするために店の運営をしているのかもしれない、とすら思えます。
題目があるほうが感想を言いやすい
これまでも、自主出版物の作者の方に感想をメールで送ったことはありました。
しかし、ただ感想を送ることに何らかの抵抗感がありました。一対一で個人的な内容のメールを送るのは相手を密室に案内するようなものであり、気味が悪いと思われはしないか心配になっていたからです。
そんな私が、作者に対して店で取扱いを相談するメールになると、ほとんど抵抗なく送れるのは不思議でした。
私が作者の方に送る相談のメールには、こちらが希望する取扱条件等を記すほか、「その本を読んでどんな感じがしたか」、「なぜその本をhesperasで取扱おうと思ったのか」を必ず付記するようにしています。(月に何百冊と仕入れなければいけない普通の本屋だと、そんなことはしないでしょうが)。
私はそのとき、作者の方に対してすらすらと感想が伝えられるのです。もちろん、嘘を書いているとか、大げさに言っているとかいうこともなく*1。そんなふうに感想を伝えられた機会は、店を始めるまでは多くなかったような気がします。
おそらく私は「ただの感想」の裏には別の目的があるはずだと思ってしまうから、私自身の感想についても「店での取扱」という題目がある方が自然に感じられるのでしょう。
「言葉の裏には何かある」と考える猜疑心があるために、私は「ただの感想」というものをあまり信じていないのだと思います。なぜそれをSNSで言うのか? とか、 なぜそれをメールで送らなければならないのか? なぜチラシの裏に書いてみて納得しないのか? などと、メタな事情を考えてしまうのだと思います。
あとは基本的に、インターネット上でも人見知りが激しいというのもあり……かつて匿名掲示板を見て人間不信を育てた余波なのでしょうか。
少しさびしく、ちょうどいい関係
このブログでも、ある個人誌でも、私は「作者と読者がどのような関係を結ぶべきなのか」について考えてきました。「物を作る人」と「それを卸して売る人」との関係は、一つの回答かもしれません。
もちろん作品を卸して売る商人は、一部の作者が強く望むような「完璧な読者」ではないでしょう。しかし、完璧な読者など現れないことを理解し始めた創作者にとっては、それなりに良い相手です。
商人は編集者ではないので、こういう作品を作ろうとか、もっとこうしたほうがいいとか提案はしない。完成したものについて、売れるかなと思えば仕入れるし、そう思わなければ仕入れない。それだけです。作者はほどほどの理解を築きながら、ともに何かをしている感覚を持ちつつ、内面にも生活にも口出しをされない。
「食事を共にするだけの相手」が欲望される昨今、そういった少しさびしい関係のほうが時代に合っているのかもしれません。もうあの頃ほどに強烈な、承認への渇望を持てなくなってきた自分にとっても。
話が報告の域を超えてきました。
結論としては、忙しく、あまり数字的には良い運営とはいえないが、
人間関係の面で、得るものが非常に多かったということです。
基本的に、hesperasでは出版物の取扱依頼は受けていませんが、情報のご提供はいつでも歓迎です。
また、現在入手困難、または地域でしか見かけないZINEや同人誌がありましたらぜひお知らせ下さい。データベースに登録する可能性があります。
連絡はcontact.hesperas@gmail.com 田原夕まで。
*1:そもそも本当にいいと思えない本を仕入れても、売る意欲が持てず結果的に双方が損をするでしょう。