文学フリマで買った本の感想(文芸誌編)


今回は、第33回・第34回文学フリマ東京(2021年11月・2022年5月)で頒布されていた文芸誌のいくつかを読んだので紹介します。前回はこちら。

dismal-dusk.hatenablog.com

もう半年以上前のため入手できるかわからないものもありますが、私はべつに販促をお願いされているわけでもないので気にせず書きます(なぜ入手困難なコンテンツは紹介を控えられることがあるのでしょうか。内容の検証ができないから?)

 

ほしのたね vol. 13 特集1 ヒーロー 特集2 SNS(文芸創作ほしのたね)

事前にWebカタログとかTwitterを見ていて、面白そうだと思いブースを訪ねたところ、とても熱をもって主旨を解説いただいたので購入しました。年2回、フェリス女学院大学の卒業生・在校生が発行している文芸誌ということです(2012年創刊)。

表紙、見出し頁のイラスト、字体の選択、余白の取り方などが一つ一つ考えられていて、このクオリティのものを年2回も作るとかすごいですね。

 

特集1は「ヒーロー」ということで、各人が自分のヒーローだと思うキャラクターやヒーローもののシリーズ紹介などをしていました。熱量がすごい。読んでいくと、私が知っているというか見たことあるのが「星のカービィ」(アニメ)くらいしかなく、これまでの私はヒーロー的なイメージにまったく興味なかったのだなと思いました。気になったのは、初期のスーパーマン(報道の力を描く)、井田辰彦『外道の書』(自己犠牲?)、シンカリオンの映画(子供の周囲がちゃんとしている)、鳥人戦隊ジェットマン恋愛模様に注力?)、仮面ライダー555(怪人としての苦悩)ですね。

 

特集2は「SNS」で、私はどちらかというとこっちを目当てに購入しました。なぜかというと、この当時私は『生き延びるための自虐』という冊子を作っており、SNSとの向き合い方について色々と考えていたからです。

特集の中で、これはと思った作品がありました。櫛川点滴「お前がな」(小説)です。全方位をdisっていく主人公の不機嫌さが一貫していて力がありました。また、全体を流れる妊娠や子どもへの強い嫌悪感には真に迫ったものを感じました。子どもは嫌い、妊娠は醜いという強い気持ち、そういうものが実在するのだとはっきりわかりました(私もそう思うようになったというわけではありません)。反出生主義やミソジニーとも響き合うと思うが、完全に重なりはしない何か、なんと呼べばいいのでしょうかこれは? この方の他の作品が気になりますが、現在手に取れるものはなさそうなので残念です。

 

竜骨座 第三号(文芸創作Carina)

Webカタログを見て面白そうだったので購入しました。後で公式サイトを確認したのですが、同人誌の発行だけではなく読書会や朗読会、小旅行、リレー小説など様々な企画を行われているようです。

第三号は読書会の記録、小説、評論で構成されています。

 

ヘッセ「少年の日の思い出」読書会……中学の教科書によく載っている当の作品をみんなで読み直してみたという企画です。再読するとエーミールの印象が変わった、という声があったのが印象的でした。また、失敗というか、ある不始末に言い訳をしたくなる気持ちは大人でも感じるという指摘に、確かにと思いました。普遍的なところをつかんだ作品だと思い、私も再読してみたくなりました。

 

小説

無良戸えり「異形の人」……花田の肌の描写に遠慮が全くなくて、普通に気持ちが悪いと思ってしまいました。彼には申し訳ないけど。そういう効果を狙って書いていたなら見事だと思います。
主人公が二人(花田、マイ)のことを気遣いながらも結局は傍観者としての立場を貫いたことについて、彼自身あまり感情がないような気がしたので、正直こいつ二人に別にそんな興味ないのでは? と思っていました。私自身も、二人をどういう視点から見ればよかったのか定めかねています。本人たちが良ければいいんじゃない、というと突き放したみたいになってしまいますが。

つくし「ありえない」……私の読解力が無いのか、「結局ふたりはその後関わりませんでした」という結末でいいのか自信が持てずにいます。中学生活は理不尽だという主人公の実感がよかったです。あと意中の人が起きるまでにさりげなく自分の部屋を整えたり、相手の部屋に行くためにめっちゃ食い下がるところがいじらしいなと思いました。

 

批評

廣瀬和巳「今こそ『のだめカンタービレ』を読み返す―異端児が この世界(ルビ:アフターコロナ)を生き抜くために」……『のだめ』のどのあたりが良かったか、先行研究も踏まえて論じているものです。千秋と父の間にエディプス的な相克を見たり、のだめの恋心と音楽的修練の関係を追ったり、色々な論点があるのだなと思いました。私は実家にいた頃原作を読んでいたのですが、国内編の後のストーリーはほとんど忘れていました。改めて自分も読み直して、何か書きたくなりました。

 

夜の紙 vol. 5 特集:働く(夜の紙)

やはりWebカタログを見て購入しました。サークル「夜の紙」では、様々な経歴の4名が秋の文学フリマに合わせてミニコミを発行されているようです。

「半径3メートルの社会批評」という言葉を掲げているとおり、それぞれの方が実際に身近に経験してきたことを元に文章を書かれているように思いました。ただし、固有名詞がたくさん出てきたり身辺雑記みたいな文章ということではなくて、たとえば「どうすればよく生きられるか」を探りつつ書かれている気がした、ということです。すごくいいコンセプトだなと思いました。

vol. 5では「働く」をテーマに、4名の方がエッセイや論考を寄せています。自らの履歴をかなり詳細な部分まで赤裸々に書かれている方もおり、わざわざ紙媒体での公開を選んだ方のそれをネットの海に漏洩させるのは気が引けるので、詳細な言及は控えて思ったことだけ書きます。

それはそれこれはこれ「姉」……家族との付き合いは変わっていっても切れない。その長い関係継続の中に、支援関係や親密なつながり一般の中にある無力感や報われたと思う瞬間を繰り返し見出されている。どれだけ生きたら、このような感慨を落ち着いて書けるようになるのか想像もつかない。

リヅ「Work(s)」
アカヒモ「研究という『仕事』あるいは『趣味』」……それぞれ経験されてきた仕事の領域は違うものの、どちらも1~2年前話題になった「ブルシット・ジョブ」に書かれていたような実感を持たれていることが印象的。自分のしたことが誰の、どんな利益になっているのかを知ることができないとか、ただ用心棒のように雇われるとかはかなりのストレスであるという。勉強になります。

「好きなことを続けて仕事にしようとしている」と見なされると異常に強く当たられる、当事者が語るなら本当にそうなのでしょう。そうやって攻撃し他者化しないと、自分が仕事を嫌々やっていることが耐えられなくなるからか。自分だって好きなことを仕事にしたいんだ、羨ましいのだと認めてしまったら、今のクソみたいな仕事を投げ出してしまいそうになるからか。このあたりのルサンチマンはよく考えてみるとかなり屈折しているような気がして、そういう人が相当多い社会となると根本的にイカレているのではないかと思ったりします。

 

「夜の紙」はこの前の文学フリマ東京(2022年11月)でも、「夕方の紙」を発行されていたので買いました(まだ半分しか読んでいませんが)。たぶん今後も文学フリマ行ったら買います。加えてバックナンバーを通販してくれたら買うと思います。

 

 

これまで文学フリマで買った本は、その9割以上がまだ紹介できていないので今後も少しずつ記事にしていきたいです。ただ、現在進行形でネット上で文筆活動をしている方や、自分のプライベートなことについて書いている人も多いので、一段と慎重になりながらではありますが。気軽に発信するには、やはりSNSのほうが適しているのかもしれません。まあSNSもログを取ってまとめたら同じことだし、見つけてくれと叫んでいるみたいでいやだなという要らぬ自意識が発動してしまうのですが。

感想を書いて公開するには、さしあたって5つ手段が考えられます。

  1. SNSに感想を書く
  2. ポッドキャストなど音声で紹介する
  3. ブログに感想を上げる
  4. 紙媒体(フリーペーパー)上などでレビューしイベント時に配布する
  5. 発行者推奨のメールアドレスや感想フォームに送る
  6. イベント会場で手紙を手渡し(実際にやっている人がいるのかは不知)

下に行くほど拡散度が低く、活動している人への個人的な言葉になってくると思います。また残存しやすさでいうと3、5、6が高く、4は部数や厚さによる、1と2は低めでしょう。4~6は相手に渡したらもう訂正や削除ができない(ゆえに間違えたらまずい)ことも注意点です。読んだ文章の性質に合わせて、適切な手段を選択したいものです。

 

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