フリーゲーム『かたわ少女』をやりました

 前回の記事を振り返ると、いろいろ論理的に不備が見受けられますが、それはまた後の機会に批評自体への考察も含めて振り返りたいものです。

 さて、今回は海外製ノベルゲーム「かたわ少女」をやって考えたことをつらつらと書いていきます。

https://www.katawa-shoujo.com/index.php(公式サイト)

 

やろうと思った理由

 この作品は、何らかの障害を持った少女たちとの恋愛を描いているフリーのノベルゲームです。ずっと前に開発版をダウンロードしたのですが、そのときは数あるゲームの中から特にこれを選んでやることもないだろうと思って放置していました。しかし、この折PCのファイル整理をしていたときに開発版を発掘し、公式サイトを見てみると完全版の日本語Ver.が公開されているではありませんか。機は熟したという状況です。また、もしかすると今後障害をもつ人と関わる仕事に就くこともあるやも知れぬ、ということも頭の片隅にあり、ここはひとつ勉強のつもりでやってみようという次第となりました。

 ところで、この「かたわ」という言葉は侮蔑的に使われてきた経緯から現代では差別語と捉えられており、この作品が初めて日本語に訳されたときにも大いに議論を呼んだようです。しかし、この困惑させられるタイトルの印象によって、この作品が障害者を小馬鹿にし、異常性癖(パラフィリア)の対象として消費しようとするものだとか、または逆に障害ということを売り物にした美談(感動ポルノ)であるといった先入観を持つなら、それは残念なことです。最初はそういうものを求めて手を出すこともあるのでしょうが、蓋を開けてみればそんな安っぽいものではないということがすぐにわかります(値段自体は0円ですけども)。こうした誤解されやすさについては、世界各国でも事情は同じであるようです。以下のインタビュー記事にあるように、これはエロゲというものに普通抱かれているイメージの問題でもあるかもしれません。

主に西洋文化で育った人々にとって、エロゲの本質の一部とも言える性行為と性的表現に対しての享楽的な部分が『かたわ少女』における最も大きな問題点であった。異質で不快に思われても仕方の無い主題と、露骨な題名(「かたわ」は主に身体の障がい、もしくは障がい者を意味するが、英語の"crippled"に近い。日本では時代がかった差別的な言葉とされる。)を持つこのゲームは、初見の時点で極めて侮辱的な印象を人々に与えてしまうのも無理は無かった。

「性行為を含む物、特にゲームの類は、ただ性的な感興とポルノを楽しむという目的のためだけに作られているのだ」というのが社会の一般的認識だとすると、この障がいを主題としたゲームを見た人々が真っ先に「特殊性癖の人」用の物だと思うのも仕方がないのだろう。しかしこのゲームの開発者グループであるFour Leaf Studiosのメンバーは、そのような反応は間違っていることを証明するために多大な労力を費やしている

「純粋で誠実な物語を作るために、あらゆることを一から設計した。決してつまらない性癖を満たす為だけに作ったのでは無いよ」 かたわ少女製作グループのメインライターであったAura氏は語る。「私たちがそうすることを決めたのは重要な決断だったけど、同時に自然に決まったことでもあった。」

かたわ少女開発者ブログ: Kotakuオーストラリアのレビュー記事翻訳

 この作品は、最初はやはり障害というもののインパクトが強すぎて、個々のキャラクターも様々な障害を体現したインスタンスにしか見えないかもしれません。しかしながら、作中で発生する人物たちの考えや感性の衝突においては、あるいは交歓においては、障害という表象はあまりに貧しく大して役にも立たないのです。その人物をできる限り生のまま、種や類に相当する審級を一度括弧に入れて受け取らなければいけません。このゲームを楽しもうと思えば自然にそうなるのではないかと思います。私の当初の目論見のように、勉強のつもりでこのゲームから障害の一般的な理解を得ようとするなら時間のムダというものかもしれません。それならちゃんとした教科書を読んだほうがいいです。

 この作品の特徴は、そうした表象への拘泥を空転させ距離をとるその仕方にあります。この点、日本のエロゲー界の歴史においても数々の「お約束」が形成されていますが、この作品はそういった有無を言わさぬお約束を遵守すると同時に静かに裏切り、単なる日本文化の模倣にとどまらない、まさに異邦の物語となっています。 

 実際にやってみると、久々にエロゲやったのでやめどころが分からずのめり込みました(3日くらいで1ルート終えました)。この没入感は明らかに普通の小説では出せない。内容がよかったこともあるのでしょうが、ゲームというのはいちいちやめるのにセーブという儀式が必要なことが絡んでいるのではないか、などと思います。

 

各ルート別感想

 ネタバレ全開ですので避けたい方は注意してください。


 

 もう全ルート終えていますが、書けているのは上のものだけです。随時更新予定です。